NVIDIAら、サッケード眼球運動中の盲目ポイントにシーンを微妙に回転させ物理空間より広いVR空間を歩行可能にするリダイレクトシステムを発表

NVIDIA Research、Adobe、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の研究者らは、眼球が小刻みに高速で動く「サッケード(衝動性眼球運動)」を利用したVRにおけるリダイレクトウォーキング技術を発表しました。

(青の線が物理空間で移動した軌道、オレンジがVR空間で移動した軌道。両者共に同じ行動の記録。)

VRリダイレクトウォーキングとは、物理空間より大きなVR空間を移動できる最大限フロアを利用する手法を指します。VRリダイレクトウォーキングは過去にも様々なアプローチで研究されており、ここでもいくつか紹介しました。

本研究では、眼球が小刻みに高速で動くサッケード眼球運動に着目し、サッケードを用いたリダイレクトウォーキングに挑戦します。それは、サッケードで起こる数ミリ秒の盲目ポイントに、シーンをわずかに回転させることで、物理空間よりも大きな仮想空間を移動するという錯覚を作り出すというもの。

視線をシーンのある部分から別の部分に移動するとき、「Saccadic Suppression(サッケード・サプレッション)」という現象が起きます。これは、視点移動の際に認知が低下するというもので、空間内の情報を認識する力が低下します。この現象中のミリ秒単位にシーンを微妙に回転させ、リダイレクトすることで錯覚を作り出すのです。引用します。

Saccadic Suppression[サッカディック・サプレッション]とは、私たちがものを見る際に起きる現象のひとつです。目はその視界のわずかな中心部しか高い解像度で見ることができない器官ですが、普段なにげなく本の上の文字や動いている自動車をクリアな映像として見ています。私たちの多くにそれが可能なのは、目が絶えず動いて対象を見つめて情報を脳に送り、その視覚情報から映像を合成しているからです。このすばやい目の動きはSaccade[サッケード]とよばれ、最高で1秒間に5回おこなわれています。しかし、それほどすばやく目を動かしたとしたら脳に入ってくる映像はぼやけてしまうはず。それとも、私たちの脳には手ブレ補正機能がついているのでしょうか。
実は、Saccadeの間に見えているはずの「ぼやけた」映像は脳に送られていません。脳のなかで手ブレ補正がおこなわれるのではなく、目を動かす瞬間のぼやけた映像が脳に入らないように視覚が遮断されるのです。これをSaccadic Suppressionといいます。つまり、私たちの脳は世界を鮮明な映像として見るために、あえて盲目の瞬間の連続を作り出しているのです。

(引用元:saccadic suppretion | せんだいメディアテーク

このサッケード方式の強みは、多数のVRコンテンツに適用できるという点です。今までの方式の多くは、VR空間のエリアをリダイレクト可能な形に先に決定しているため、他のコンテンツへの適応ができないでいましたが、サッケード方式はエリアの形に関係なく導入することが可能です。

また、歪みを利用しないため、ユーザが不自然に感じることも少ないとし、さらに、他のプレイヤに衝突することや、壁や柱のような障害物に当たらないように役立てることも可能にします。

ユーザーの視線を追跡し中心部だけを高解像度に、周囲を低解像度に描画する視線ベースのレンダリング技術「Foveated Rendering(中心窩レンダリング)」と同等に、今後のVR技術のデファクトスタンダードになるポテンシャルを秘めているかもしれません。

以下の映像では、実際にリダイレクトしている様子を確認することができます。

 

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