東京工業大学、オタゴ大学、大阪大学、奈良先端科学技術大学院大学、和歌山大学による研究チームは、背景からの光を差し引いて画像を形成する光減算タイプの光学式シースルーニアアイディスプレイ(optical see-through near-eye displays, OST-NED)を発表しました。
論文:Light Attenuation Display: Subtractive See-Through Near-Eye Display via Spatial Color Filtering
著者:Yuta Itoh, Tobias Langlotz, Daisuke Iwai, Kiyoshi Kiyokawa, and Toshiyuki Amano
所属:Tokyo Institute of Technology, University of Otago, Osaka University, Nara Institute of Science and Technology, Wakayama University
本論文は、空間的に光の色を差し引くことによって画像を形成する、減光に基づくOST-NEDを提案します。既存のOST-NEDは、ユーザの視野に光を挿入する加法方式で虚像を形成します。しかしながら、それではオブジェクトに影を付けることも困難であり、オブジェクトも明るく半透明のままで現実感が低下します。そこで本論文は、これら課題を解決するために、光を引き算する減法方式のディスプレイを使用する色制御アプローチを検証します。
本提案は、偏光(電磁波が特定の方向にのみ振動する光)と複屈折(光線がある種の物質を透過したときに、その偏光の状態によって、2つの光線に分けられる現象)という2つの光学特性を操作することで検証します。これら光学特性を操作するために、各ピクセル内の光の位相を制御できるモジュール「位相空間光変調器(phase-only spatial light modulator , PSLM)」と、入射光を2つの直交する偏光に分割する「偏光ビームスプリッタ(polarized beam splitter, PBS)」をプロトタイプに使用します。
PSLMとPBSを組み合わせたプロトタイプを用いることで、実際の背景光の色をピクセル単位にフィルタリングし、空間的にプログラム可能なカラーフィルタを実現します。これにより、ピクセル単位のレベルで入射光をフィルタリングして環境の外観を操作したり、デジタル情報を表示したりできることに加えて、既存のOSTのように、ピクセル単位のカラーフィルタリングとピクセル単位のカラーブレンディングの両方を組み合わせることも可能にします。ARに適応すると、以下の図のように明るい環境下でも鮮明なAR画像を生成できます。
更に、環境の映像を視点カメラで取得・解析し、ピクセル単位の色変調をかけることで、以下の図のように視界の彩度を操作することもできます。
本論文は、減法方式を用いることで、既存のOST-HMDが苦手とする明るい屋外環境や明るい光源上にでも、より現実的な画像を生成できる新しいアプローチを実証しました。また、ディスプレイの電力を消費する主な要因であるバックライトを必要としないため、ディスプレイだけを考慮するとAR装置の電力消費を劇的に減らす可能性も導き、さらに空間カラーフィルタとして動作するため、色覚異常者のための補助装置としての活用にも貢献できる可能性も導きました。