ソニーコンピュータサイエンス研究所(Sony CSL)とシカゴ大学による研究チームは、意志よりも早く動かされる身体と「自分がやった」知覚の境界を探求する研究を発表しました。
Shunichi Kasahara(Sony CSL & University of Tokyo, Tokyo, Japan)
Jun Nishida(University of Chicago, Chicago, IL, USA)
Pedro Lopes(University of Chicago, Chicago, IL, USA)
本論文は、コンピュータによって自分の意志よりも早く動かされる身体と、自らが動かしたと感じる「行為主体感(Sense of Agency)」との関係を研究します。これまでの研究では、EMS(筋電気刺激)や機械的アクチュエータなどによって、ユーザの意志より早く動かす、いわゆる物理的反応時間を高速化するハプティック・システムが提案されてきました。しかしながら、ユーザが自分を制御している感覚ではなく制御されたと感じており、そこには行為主体感が失われていました。そこで本提案では、自分の意志よりも早く動かされながらも行為主体感を知覚する境界を検証します。
実験では、EMSを用いて、意志より早く指を動かす方法で検証します。結果、通常の視覚反応よりも約80ms(約0.08秒)時間先行させても行為主体感を保持する時間境界があることを実証しました。このことで、コンピュータを用いて「自分がやった」と思いながら、身体を約0.08秒早く動かすことができ、言い換えると、行為主体感を完全に失わせることなく、反応時間を高速化させる能力の拡張を可能にしました。デモ映像では、高速化の結果ペンをキャッチしたり、スピードボールを撮影したり、通常の反応時間では捉えきれないタスクをクリアしている様子を確認できます。