東京大学と慶應義塾大学の研究者らは、超音波集束ビームを用いて3次元を空中浮遊・空中移動するLED内蔵の極小発光体を開発しました。蛍のように光ることからゲンジボタルの学名より「Luciola(ルシオラ)」と命名されました。
著 者 : Yuki Uno、Hao Qiu、Toru Sai、Shunta Iguchi、Yota Mizutani、Takayuki Hoshi、Yoshihiro Kawahara、Yasuaki Kakehi、Makoto Takamiya
Luciolaは、3次元空間中を自由に移動でき、自ら発光し、そして手で触れられるという3つの要件を備えた小型電子回路内蔵発光体です。
これまで、超音波集束ビームを使用した小型浮遊物体は、騒音なく高精度に浮遊・移動できるものの、電子回路を持たず、直径数ミリメートル以下の発泡スチロール球のようなごく軽いものに限られていました。
しかし、今回、無線給電による電池の不要化と、LED点灯に必要な無線給電用の受信回路の専用IC化の2点を工夫することで小型・軽量化を実現し、直径4ミリメートルの半球形状で重さ16ミリグラムの空中移動する発光体の作製に成功しました。
空中浮遊・移動技術とエネルギー供給技術
実現するためには、物体の空中浮遊・移動技術と、浮遊したLEDへのエネルギー供給技術の2つを必要とします。
空中浮遊技術としては、超音波スピーカーを17個×17個の2次元格子状に並べた17センチメートル四方の超音波アレーを2台、20センチメートル離して対面に設置し、空間の1点に超音波ビームの焦点を集めることで実現させます。
エネルギー供給は、発光体の近くに設置した直径31ミリメートルの給電用コイルから、発光体に内蔵されたフレキシブルプリント基板上に形成した受電用コイルに対して、12.3メガヘルツの磁界共振結合型の無線給電により行います。
(a) 「ルシオラ」を実現するための全体セットアップ。(b) 無線給電により空中で点灯するルシオラ。(c) ルシオラに内蔵されたLED、無線給電の受電用コイル、専用IC チップ。
手で触れる空中ディスプレイへ
さらに、手で触れる空中ディスプレイの実現に向けた発光画素のデモとして、空中移動と無線給電をオンオフするタイミングを合わせて制御することにより、空中の位置に応じてLED を点灯・消灯し、3次元空間内に文字や図形を表示したり、読者の視線の動きに合わせて本の上の空中を移動するマイクロ読書灯を可能にしました。
(左図:空中に英語の”L”の文字を描画した適応例。写真の露光時間20 秒。右図:発光しながら本の上の空中を移動するマイクロ読書灯への適用例。)
今後は、空中ディスプレイの表現力をより高めるために、発光物体の個数を増やすことによる発光画素の多点化に取り組む予定とし、さらに、空中移動する小型電子物体に対してセンサー、アクチュエーター、無線通信機能などを追加することにより、空中移動可能な小型のセンサーノードとしてIoT 分野へ展開する研究に取り組んでいくとしています。
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