慶應、HoloLensなどの光学シースルーHMDで表示する半透明な仮想オブジェクトを実物のようにくっきり写す不透明描写手法を論文にて発表

慶應義塾大学理工学部情報工学杉本・杉浦研究室(Interactive Media Lab)の伊藤特任助教らは、Microsoft HoloLensやMetaなどの光学シースルーHMD(OST-HMD)において、実世界に重なって表示される半透明な仮想オブジェクトを実物のようにくっきり写す不透明描写方法「Occlusion Leak Compensation」を論文にて発表しました。

Occlusion Leak Compensation for Optical See-Through Displays using a Single-layer Transmissive Spatial Light Modulator(PDF)

(左が既存の光学シースルーHMDから見える半透明の仮想オブジェクト。右が本提案による表示。)

現行の光学シースルーHMDは仮想オブジェクトを半透明に表示してしまうため、現実感が阻害される課題があります。

しかし、現在のシースルーHMD技術で光学的な「遮蔽(Occlusion、オクルージョン)」(手前の仮想オブジェクトが背後にある実物体を隠して見えない状態)を表現するのは非常に困難なのが現状です。

この課題を解決するため、本論文では、透過型空間光変調器(SLM)1枚を用いた単層アプローチで光学シースルーHMDにおける遮蔽を実現します。

本提案の重要な要素である「SLM」とは、いわゆる液晶ディスプレイ(LCD)のことで、通過する光線を選択的に減衰させることができるデバイスです。

論文での実証のための光学シースルーHMDシステムではSLM1枚に加えて、ビームスプリッター、背景撮影用のカメラ(Scene Camera、SC)、ユーザー視覚代わりのカメラ(User-perspective Camera)を備えます。

(実証システム。左が俯瞰図、右が正面から見た場合。遮蔽用のLCDがHMDの前に取り付けられている。)

提案システムではまず、仮想物体に応じて計算された遮蔽マスクをLCDに表示し、仮想物体に重なる背景の光を遮ることで、遮蔽を実現します。

しかし、これではマスクと仮想スクリーンの間の深度が一致しないため、オクルージョンマスクの周囲がぼやけて表示される欠点が存在します。この現象を論文では「遮蔽漏れ(Occlusion leak、オクルージョンリーク)」と呼んでいます。

この遮蔽漏れを解決するため、遮蔽漏れ領域周辺の背景の理想的な外観を計算し、ディスプレイ上に重ね合わせ補償したのが論文の提案手法です。

(提案手法による遮蔽漏れ補償画像計算の流れ。)

上記システムによる実証では、遮蔽漏れによる背景誤差を61.4%、遮蔽自体による誤差を85.7%低減しました。

下記のデモ映像でも確認できるように、動作する仮想オブジェクトが実物体のように自然に背景を遮蔽している様子が見て取れます。

 

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