スタンフォード大学、新たなディスプレイ技術でVR/ARシステムにおける酔い等の視覚的不快感を軽減する手法を論文にて公開。輻輳と焦点距離の不整合問題の解決にトライ

スタンフォード大学の「SCI(Stanford Computational Imaging)」は、VR/ARシステムにおける酔いなどの視覚的不快感を軽減するソリューションをSIGGRAPH 2017で論文発表することを公表しました。研究論文はこちら(PDF)。

何が問題で、どう解決するのかを順番に見ていきます。

問題点:輻輳(ふくそう)距離と焦点(調節)距離の不整合

現在のVR/ARシステムというのは、立体像を表示する時に不自然な表示の仕方をしており、それによって酔いなど不快感が起こる要因の1つと言われています。

それは、輻輳距離と焦点(調節)距離の不整合問題です。

  • 輻輳距離:人は、近くの物体を見る場合は「寄り目」で見て、遠くの物体を見る場合は「離れ目」で見ます。この調整を「輻輳」と呼び、輻輳距離とは物体までの距離を示します。
  • 焦点距離:眼のレンズ部分にあたるのは水晶体と言います。人は、近くの物体を見る時は水晶体が「分厚く」なり、遠くの物体を見る場合は「薄く」なります。ピントを調節する機能が水晶体にあり、ピントが合うまでの距離を焦点距離と言います。

人が自然に物体を見た場合、この2つの距離が一致します。しかし、VR/ARシステムで立体像を見た場合は違います。それは、固定したスクリーンにある元画像にピントが合い、スクリーンの前後に表示される立体像を輻輳が捉えるからです。

この両者の距離が不一致になるがゆえに、脳が不自然と感じ酔いなどの不快感が生じると言われています。

(上図:輻輳距離と焦点距離が不一致な状態)

(上図:輻輳距離と焦点距離が一致している状態)

画像出典:https://stanford.edu/class/ee267/lectures/lecture8.pdf(PDF)

この問題を解決するためにいろんなチームが解決策を提示してきました。

焦点距離を輻輳距離に高速でおおよそ合わせる方式「可変焦点」や、多光軸情報を再現する「ライトフィールド」など、現在進行形で研究が進められています。

その中の1つとして出てきたのが今回のアプローチで、「Accommodation-Invariant(AI) Near-Eye Displays(以下、AIディスプレイ)」と呼ばれる新しいディスプレイ技術が提案されます。

解決策:AIディスプレイ

AIディスプレイは、焦点距離と輻輳距離が不整合のままなのに、どの奥行きを見てもピントが合っているかのように表示するアプローチです。

輻輳距離が移動しても焦点距離は固定したままで、PSF(点拡がり関数)を用いて視覚刺激を生成するシステムで実現します。

上図は、従来のディスプレイとAIディスプレイを比較したもので、上段が従来のディスプレイで見える画像で、左から0.3m、1m、無限とピントの距離を表します。AIディスプレイである下段を見てもらえると、ピントが変わっているのに対してほぼ同じように見えてるのが確認できるかと思います。

このように、AIディスプレイは焦点(調整)は固定したままで、PSFを調整することで画像のシャープネスの変化なしに任意の距離に対応することを可能にします。

このことで、輻輳と眼の調節状態との不一致が低減され、同時にユーザーにとっての不快感も軽減されるものとしています。

本研究では、これらを実証するためにベンチトップ型のプロトタイプ近接ディスプレイ・システムを構築しました。(下図)

論文はこちら(PDF)。

 

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