東京大学:情報理工学系研究科の國吉康夫教授は、学生時代から30年間AI(人工知能)を追求しており、この度一部の研究を公開しました。
人間のためになる人工知能
國吉教授は、「真に賢く、人間のためになる人工知能」を目標に人間の心を持ったAIを開発するため日々研究を続けています。
既存のAIといえば、自動運転車に目的地まで行ってと伝えれば必ず行きますが、途中運転手が苦しみ出しても病院に行くことはありません。
つまり、人間とAIは同じことを考えていない。しかし、真に賢く適応力の高いAI(人と同じことを同じような方法で考えるAI)を達成するのが國吉教授の目標です。
そのためにはどうすればいいのか、教授はこう言います。「人の知能とはどんなもので、人の振る舞いを生み出す大本の原理とは何なのか理解せねば」ならない。
「高度な制御」でなく「人らしい身体性」が人間らしい動作を生み出す
人らしい動作を再現するロボットを作るためにはどうすればいいのか。人間の動作を調べると、あることに気がつきます。
それは、どんな動作でも特定の瞬間に確実に通過しなければいけない、「ツボ」のような点があるという事です。例えば、寝た状態から跳ね起きるロボットの場合は、足の裏が地面に接する瞬間に成否を分ける「ツボ」がある。(動画)
そのツボ以外では、体に任せて動いているというのが本質と述べます。つまり、ロボットの運動もツボを外さなければ、最初から最後まで細かく制御する必要はないというわけです。
人の胎児に着目
上記のように身体的な再現を踏まえて、次に人の知能にシフトします。國吉教授は、人の知能を理解するため、根源的な原理を探るべく「胎児」に着目します。
人の胎児をシミュレーションするために、400本ほどの筋肉と骨格を持った胎児の身体と、羊水で満たされた子宮に見立てた環境をコンピュータ上で構築します。そして、各筋肉をバラバラに振動させました。(動画)
すると、実際の子宮の中の胎児と同じような振る舞いが「創発」されたと言います。それは、プログラムで制御された動きではなく、自然な人間らしい動きです。
胎児は、骨格を介したり、羊水や子宮壁の圧力が自身にかえってきたりなど、子宮の中の環境で育っていき、触覚や体性感覚を通じて大脳が感覚情報を受け取り、神経回路が自分の身体について学習する様子が確認できたとします。
さらに、子宮内で学習させた場合の方が、より神経回路が発達したと述べます。國吉教授は、こうした自分の身体に関する認知を基盤として、徐々に外界の認識や社会性といった人間的な認知や振る舞いが「創発」されていくと考えます。
研究の先
これらの研究の先にはこのような成果があると國吉教授は語ります。「本当の意味で自分の経験や身体感覚に根差してちゃんと人の言うことの意味が分かり、人と人らしく対話でき、真に人のためになるロボット」があると。